SUPで長く速く漕ぎたい。トレイルを気持ちよく力強く走りたい。登山でも、最後まで余裕を持って歩きたい。
そのために筋トレもランニングも必要だと思うけれど、いろいろな練習の時間を確保するのは簡単ではないですよね。
僕自身、SUPやランニング、トレイルランニングを楽しみながら、逗子のGRIFIT GYMでHYROXトレーニングを継続しています。
そこで感じている一番のメリットが、限られた時間で、さまざまなトレーニング要素にバランスよく取り組めることです。
ふと考えたのが、HYROXはSUPやトレランのベーストレーニングとして使えるのか?
僕は、競技的にスポーツをしているわけではないですが、オフシーズンの体力づくりに活用できる選択じゃないかと考えるようになりました。ただし、HYROXを続ければ必ずSUPやトレランが速くなる、とまでは言えませんが。
この記事では、期待できることと、競技そのものの練習が必要なことを分けて考えながら、考察していきます。
1. HYROXはレースだけじゃない
HYROX(ハイロックス)の大会は、1kmのランニングとワークアウトを交互に行い、合計8回繰り返すフィットネスレースです。ランニングの合計は8km。走る能力と、さまざまな動作を繰り返す体力が求められます。HYROX公式・競技概要

でも、アウトドアスポーツの体力づくりに取り入れるなら、毎回レースを丸ごと再現する必要はありません。
種目を選び、重量や回数、ランニングの距離、休息を調整する。そうすれば、HYROXの種目を使ったトレーニングを、自分の目的に合わせて組み立てられます。
この記事でいう「HYROXトレーニング」は、こうした調整を含むものです。大会と同じ負荷で、毎回タイムを競う練習だけを指しているわけではありません。
2. HYROXで鍛えられる身体能力
HYROXの特徴は、走る・押す・引く・跳ぶ・運ぶといった誰でも出来る簡単な動作が組み合わされていること。
各種目を、体力づくりの視点で整理すると次のようになります。
| 身体能力の視点 | 主な種目 | トレーニングとして注目したい点 |
|---|---|---|
| ストレングス〈筋力〉 | Sled Push/Sled Pull | 重い抵抗に対して押す・引く力 |
| バリスティックな動作・パワー | Burpee Broad Jump/Wall Ball | 跳ぶ・投げる動作で力を素早く発揮する |
| パワーエンデュランス | SkiErg/Row | 出力を繰り返し維持する能力 |
| ストレングスエンデュランス〈筋持久力〉 | Farmers Carry/Sandbag Lunge | 荷重を支えながら動作を続ける能力 |
| ランニング・心肺機能 | 1km×8回 | 走り続ける能力と、種目間で走る負荷への対応 |
種目構成はHYROX公式を参照。表の分類は、公式の能力分類ではなく、トレーニングを理解するために整理したものです。
実際には、一つの種目に複数の要素が重なっています。
例えば、Sled Pushも長く反復すれば筋持久力への要求が高まります。Wall Ballも、疲労した状態で回数を重ねれば、最大パワーより動作を続ける能力が中心になりますし、SkiErgやRowにも、有酸素性の持久力が大きく関わってくるでしょう。

つまり、ひとつの種目だけで単一の効果が決まるのではなく、重量・速度・回数・休息によって狙いが変わるということです。
短時間で多様な刺激を組み込みやすい一方、すべての能力を同時に最大限伸ばせるわけではありません。
筋力や瞬発力を重点的に伸ばしたい時期には、十分に休息を取りながら行う専用の練習も必要になると思います。
3. SUPのベーストレーニングとしてのメリット
SUPは、腕だけで漕ぐスポーツではない。
立った姿勢を保ちながら、下半身・体幹・上半身を連動させて、パドルに力を伝え続けます。競技者の研究でも、SUPの有酸素能力が測定されており、陸上の検査と水上での評価を区別する重要性が示されています。SUP選手の有酸素能力を調べた研究
こうした要求を考えると、HYROXの種目には、SUPの土台づくりとして取り入れる理由があります。
例えば、SkiErgやRowでは全身を使った反復運動に取り組めます。Farmers Carryでは荷重を持って姿勢を保ち、Sled PushやSandbag Lungeでは下半身に負荷をかけられます。

これらは、SUPに必要な体力の一部を陸上で補う手段になり得る、という考え方です。
ただし、SkiErgの動作がSUPのストロークと同じわけではないことは、理解しておく必要があります。パドルを水に入れる角度、キャッチの感覚、左右の切り替え、ボード上の荷重移動は、水上での練習が必須です。
「SUPの筋トレとして使える部分はある。でも、漕ぎの技術は漕いで磨く」。この区別が大切。
水上での練習については、以前紹介したSUPトレーニング@三浦半島 BEACH葉山&PADDLERも参考にしてみてください。
4. トレランのベーストレーニングとしてのメリット
トレイルランニングでは、走る持久力に加えて、登りで身体を持ち上げる力や、下りで身体を支える能力が求められます。
筋力トレーニングを取り入れる根拠は、例えば、長距離ランナーを対象とした介入研究を見てみると、通常の持久走に8週間の最大筋力トレーニングを追加すると、ランニングエコノミーが改善しました。これは、一定の速度で走る際の酸素消費が少なくなることを意味していてます。Størenら、2008年
また、2024年のメタ分析では、高負荷の筋力トレーニングや複数の方法を組み合わせたトレーニングなどによる改善が報告されています。筋力トレーニングとランニングエコノミーのメタ分析
ただし、これはHYROXを行えばトレランのタイムが改善するという直接的な証拠ではありません。
研究で用いられた筋トレと、疲労下で種目を連続するHYROXトレーニングでは、負荷の設定が異なります。
そのうえで、Sled PushやSandbag Lungeを下半身の補強に使い、ランニングと組み合わせることは、トレランの基礎体力づくりとして考えられのでは、と思っています。

登山についても、荷重を支えて歩く、脚で身体を持ち上げるといった要求に対して、基礎筋力や筋持久力を補う使い方が考えられます。ただし、Farmers Carryとザックを背負った登山では、荷重の位置も活動時間も違います。
山で必要な体力へつなげるには、実際の登下降や、装備を背負って歩く練習も欠かせません。
5. オフシーズンにHYROXを取り入れるメリット
特に活用しやすいのが、SUPやトレランの練習量が減るオフシーズンです。
ここでいうオフシーズンは、必ずしも冬のことではなく、自分の目標大会や活動予定から見て、競技練習の優先度を少し下げられる時期と考えています。
その期間に、次のような課題へ取り組みます。
- 普段の練習では不足しやすい基礎筋力を補う
- 有酸素運動を継続し、心肺能力の維持・向上を狙う
- 跳ぶ・投げる動作を使い、パワーを刺激する
- 荷重を支え続ける筋持久力を養う
- 全身を使う動作の機会を保つ
HYROXの種目は、これらを一つの練習枠に組み込みやすいことが魅力です。
筋トレ、ランニング、HIIT、パワートレーニングをそれぞれ別に計画すると、予定を組むだけでも大変です。複数の要素へまとめて取り組めることは、時間の限られた人にとって実用的なメリットになります。
ただし、個別に行う方法より、同じ時間で必ず大きな効果が得られると確認されているわけではありません。ここでのメリットは、練習の組み立てやすさと、取り組める内容の幅。
また、シーズン終了直後で疲労が残っているなら、まずは回復が優先。
オフシーズンだからといって、すぐに高強度の練習を増やせば良いというものではないと思います。
6. HYROXだけでは足りない部分
最初に押さえておきたいのは、研究でわかっている範囲です。
2025年のHYROX研究は、11人を対象に模擬レース中の生理的反応や成績に関わる要因を調べたものです。SUPやトレランへの長期的な効果を検証した研究ではありません。Brandtら、2025年
2026年には複数シーズンのHYROX競技成績を分析した研究も公表されていますが、こちらも他競技へのトレーニング効果を検証するものではありません。Rappeltら、2026年
今回確認した範囲では、HYROXトレーニングによってSUPやトレランの競技成績が向上することを直接検証した介入研究は見つかりませんでした。
現時点での提案は、筋力トレーニングなどの研究と、それぞれの競技が必要とする能力を踏まえた応用です。
HYROXだけでは補いにくい要素もあります。
| 競技 | 競技そのものの練習で補いたい要素 |
|---|---|
| SUP | パドル操作、水を捉える感覚、波や風への対応、ターン、ボード上のバランス |
| トレラン | 不整地の足運び、登下降の技術、長い下りへの適応、長時間の行動 |
| 登山 | ザックを背負った登下降、歩行ペース、補給、装備の扱い、地形や天候の判断 |
特に下りでは、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する負荷が繰り返されます。下り走を反復した研究では、その負荷に対する適応が調べられています。ジムで脚を鍛えることと、下りに慣れることは、分けて考えたいポイント。下り走の反復による適応を調べた研究
また、すべての練習を息が上がる強度にする必要はないので、長く動くための低強度の練習や、回復できる余裕も残しておきましょう。
7. シーズンが近づいたら競技特異性を高める
競技特異性とは、鍛えた能力が、練習した動作や条件に応じて発達するという考え方です。
SUPで使える体力にするにはSUPを漕ぐ。山で使える体力にするには、実際に登り、下り、不整地を移動する。
HYROXを取り入れる場合も、シーズンに合わせて練習の比重を変えていくのが良い選択かなと思います。
| 時期 | 主な目的 | 練習の考え方 |
|---|---|---|
| OFF SEASON | 回復後、総合的な身体能力を底上げする | HYROXの種目や筋トレを活用し、無理のない有酸素運動も続ける |
| PRE SEASON | 基礎体力を競技の動作へつなげる | SUPや実際のトレイルの比率を増やし、ジムの練習量を調整する |
| IN SEASON | 競技練習・大会・回復を優先する | SUP・トレランを中心にし、補強は疲労を残しすぎない量へ絞る |
これは、固定の週間メニューではなく、練習配分の考え方で、切り替える時期は、目標大会、経験、回復状況によって変えていけば良いかと。
競技練習を増やす際は、今までのHYROXトレーニングにそのまま上乗せするのではなく、全体量を見直して計画していくことが大切。
ジムで頑張りすぎて、水上やトレイルで予定した練習ができなくなっては、目的から離れてしまいますからね。
トレイルへ出る準備には、トレラン初心者の装備ガイドも活用してください。
8. 実際にHYROXを継続して感じたこと
僕は現在、逗子のGRIFIT GYMでHYROXトレーニングを継続しています。普段はランニングやトレイルランニング、SUPにも取り組んでいます。

続けていて一番メリットを感じるのは、短時間で、さまざまなトレーニング要素をバランスよく鍛えられることです。
走ることだけ、重いものを持ち上げることだけに偏らず、押す・引く・運ぶ・跳ぶといった動作に取り組める。この幅の広さに魅力を感じています。
もちろん、これは僕自身の実感です。SUPのタイムやトレランの成績について、HYROXの効果だけを切り分けて検証したものではありません。
それでも、海や山での活動を続けるための体力づくりとして、限られた時間に複数の要素を組み込めることは、大きなメリットだと感じています。
9. まとめ
HYROXは、SUP・トレイルランニング・登山のための、総合的な体力づくりに活用できる選択肢になり得る。
特に、競技練習の量が減るオフシーズンには、筋力・心肺機能・パワー・筋持久力へ幅広く取り組む枠組みとして推していきたい。
ただし、HYROXそのものがSUPやトレランの成績を向上させる直接的なエビデンスは、今回の記事では確認できているわけではありません。筋トレやランニングの研究結果を、そのままHYROX全体の効果とみなすことはできないので、参考程度に考えていただければ。
大切なのは、オフシーズンに身体の土台をつくり、シーズンが近づいたら、その体力を実際の競技で使う練習へつなげること。
HYROXで培う体力と、海や山で磨く技術。その両方を、自分の目標に合わせて組み合わせていく。
僕は、そんな使い方が、HYROXトレーニングの効果的な使い方だと思っています。
この記事が参考になれば幸いです。